テニス選手がラケットを破壊(叩きつけ)する科学的理由

テニス選手がラケットを破壊(叩きつけ)する科学的理由

2020年9月10日 1 投稿者: gura

 テニスの国際大会で、イライラからテニスラケットを叩きつけ破壊する行為が、数多くフォーカスされています。これは、「テニス選手の気性が荒いから」ではなく、“テニス”そのものが、テニス選手の気性を粗くしているのです。また、ボールを打って、誰かに当てたりする行為も同様です。

 確かにラケットを叩きつけ破壊する行為は、カーボンの破片によるけがや、コートの損傷などが起きるため、容認できるものではありません。ただ、内情を知れば、破壊する理由も分かります。





 テニスラケットを破壊する行為

 先ほども述べたように、テニスラケットを叩きつけ破壊する行為は、良くないことだと思います。

 まず、破壊することによって、カーボンの破片が飛ぶ可能性があります。その破片により滑って転んだ時にけがをすることだってあります。また、自分だけではなく、チェンジコートで相手がそちら側のコートにきますし、そのあとの試合だってあります。また、破片を拾ったりする手間もあります。

 また、ラケットは一本一本職人が金型から最終加工(塗装やグロメットの取り付けなど)手作りをしています。破壊されたら、嫌な気持ちになります。(特に日本人)

 叩きつけて破損がない場合でも、カーボンの内部損傷が起きたり、塗装の剥げなどがある可能性があり、再利用はできません。


 ラケットの叩きつけのペナルティ

 国際テニス連盟や大会主催者などの規定により「アスリートにふさわしくない行為(ラケットや用具の乱用という違反)」として罰金が科せられることがあります。トッププロの場合、ポイントやゲームを失うだけでなく、150万円以上の罰金を科されることもあります。

 さらにスポンサーとの契約もあります。イメージを大切にしているスポンサーにとって、ラケットの破壊は観客に対し非常にネガティブなイメージを与えるため、ラケットを破壊した場合の違約金を指定していることもあります。錦織選手は、スポンサー料として年間2億5000万円受け取っている(税金とかかります)といわれていますが、ラケット破壊に対し10%の違約金が発生するともいわれています。10%といっても、2500万円で、錦織選手の収入(賞金やメーカー以外のスポンサー(テレビなど))からしたら微々たるものなのでしょうけど。


 なぜラケットを破壊するのか

 一番の問題は、テニスという競技の過酷さです。

 テニスは、相手を攻めていけるパワーと、ネット&アウトをしないショットの繊細さが求められます。「相手の位置・足の位置・ボールトの距離・打ち方・振り始める時間、打ち方(回転量・方向)、スイングスピード、ネットとのクリアランス、落下点、相手がどのように返球してくるか」などを、瞬時に多くのことを考えなければいけません。そのため、多大な集中力が必要です。

 しかし、テニスのトップ大会は、6ゲーム先取(タイブレークの場合は7ゲーム)を3セット取るまで行うことがあります。これは、MAX65ゲームで1ゲーム6ポイントだとしても、390ポイントになります。時間にすると、5時間越え(1日)も多く、ギネスでは11時間5分(3日間)です。ずっと走っているわけでは無いですが、ほぼ全力で走ることも多く、かなりのスタミナを消費します。

 スタミナを消費することによって、集中力が切れやすくなったり、自制心が働かなくなったりします。さらに、ミスや、観客のガヤ、日差し、暑さなど、様々な要因がメンタルに影響します。その結果、集中力が切れ、ミスが増え、苛立ちラケットを叩きつけてしまうのです。また、一つのミスが形成を完全に逆転させることも多く、集中力が切れた後のことを意識してしまうと、苛立ちやすくなるということもあります。

 さらに、監督やチームメイトがフィールド内にいないため、心のよりどころやメンタルを沈めにくくなっています。

 さらに、テニスが世界ツアーであることも要因の一つです。他の競技は国内で完結して一時期だけ海外で競う(ワールドカップやオリンピックなど)ことが多いです。しかしテニスは、全世界のトーナメントを回らないといけません。4大大会(イギリス・フランス・アメリカ・オーストラリア)もちろん、ATP1000・500・250(トーナメントランク)などです。慣れない食事・環境・言語・時差・季節(気温)・交友などもストレスの一つです。

 ほかのスポーツとの比較

・バトミントンは、21点の2ゲーム先取です。平均20点ずつ取りあったとしても、120点です。長くても1時間程度です。さらに屋内で空調も効いています。テニスよりは、その面でのメンタル消耗量は少ないはずです。また、近くに監督がいることが多いので、テニスなような孤独感がありません。

・卓球は、11ポイントの4ゲーム先取です。平均10点ずつ取りあったとして、80ポイントです。最長試合時間は1時間38分です。目安としては1時間です。卓球は相手のボールの回転方向・量に集中力を一番使いますが、屋内で空調がきいていることや、試合時間から見ると、その面でのメンタル消費量は少ないと思います。また、こちらも監督がいることが多いため孤独感が少ないです。

・野球は、一試合3時間半程度です。屋外であり気象条件的には過酷です。しかし、集中力は切ってはいけないですが、下げても問題ない時間(落ち着ける時間)が多くあります。また、監督やチームメイトがいるため自制が効きやすいです。

・トライアスロンは、3時間程度(スイム・バイク・ラン)で、濡れたり乾燥したりと過酷な環境ですが、ミスというものがほとんどありません(転倒とかはありますが)。集中力が少なくても、気合と根性で何とかなります。

・自動車レースは、F1でさえ2時間以内になっています。これは、集中力の観点から、事故を防ぐためです。一つのミスで死亡する可能性がある競技で、非常に高い集中力が求められます。エアコンがないことも多く暑い上(最近はクールスーツというものが使われてきている)、集中力によりスタミナがかなり消費されます。したがって結構荒れる人が多いです。ただレースが続いてることも多く、表には出ていませんが、結構車の中でぶちギレたりしてます。YouTubeとかで無線を聞くと分かると思います。

 まとめ

 テニスはラケット競技の中でも、トップクラスに過酷です。集中力が一瞬でも切れると、ミスをしまくってしまい、イライラしてきます。時間も長い上、ポイント間の時間やラケットがあることにより、ものに当たりやすい環境なのです。

※テニスではない競技は、テニスにはない難しさがあります。決して「テニスより楽な競技」と言っているわけではありません。2時間を超える長時間性や、酷暑、孤独感などが、他の競技よりメンタルに負荷が多くかかっています。

 ※他の競技も「メンタルの安定力」が絶対に必要です。テニスではない競技は、テニスにはない難しさがあります。決して「テニスより楽な競技」と言っているわけではありません。テニスの方がメンタルを不安定にさせる要素数(長時間性や、試合環境、孤独感など)が比較的多いという意味です。




 どうすればラケットに当たらなくなるのか

 試合時間を短くすることで、集中力の消費、スタミナの消費、自制心の保持ができ、必ず少なくなります。ベスト時間は2時間以内だと思います。だいたい2セットまでです。3セットマッチで2セット先取にするなら、1セット4ゲーム先取です。

 ただ、不可能でしょうね。テニスという競技は、メンタルの上がり下がりを見どころにしている人も多いですから。

 ラケットを破壊したら”失格”にするという案もありますが、もちろんそうすればラケット破壊は減ると思います。ただ今度は、バッグに当たったり飲み物に当たったり、ボールを思いっきりフィールド外に打ったり、施設に当たったり(蹴ったり)する人が出てくるなど不安要素が増えます。また観客や、無関係な人(通りすがりの車など)に被害が出た場合スポンサー契約を解除するしかなくなるため、スポンサーからすれば、ラケット破壊の方が損害が少なくて済みます。罰金も入りますし。では「罰金金額を上げればいい!」と言われるとそうではありません。金額を上げすぎると選手が契約してくれなくなるためです。もっと言ってしまえば、ラケットを破壊してでも優勝してくれた方がスポンサーにとっては、収入が増えますし。

 正直に言って、運営・選手・スポンサーなど全ての関係者が納得する解決策はほぼないでしょう。少し軽減するなら、監督を入れるか1ゲーム失うかくらいですかね。暑さの問題は、競技場の広さ(全コート)上、コストが多くかかり難しいでしょうね。

 何かいい案があれば教えてください。