テニスラケットの重り(ウェイト)の付け方と位置による違い

テニスラケットの重り(ウェイト)の付け方と位置による違い

2021年7月1日 0 投稿者: gura

 テニスラケットに重り(鉛テープ・リードテープ・レッドテープ)などを張ることで、ボールスピードが上がったり、コントロールが上がったり、ボールスピードが落ちたり、コントロールが下がったりします。

 「は?何言ってんだこいつ!」と思うかもしれませんが、錘を貼る位置や量が適切ならパフォーマンスがアップしますし、不適切ならパフォーマンスが下がります。

 このページでは、「張る位置や量によって、ラケットがどんなパフォーマンスになるのか」・「完璧に適切になる調整方法」をご紹介いたします。





 スイングウェイトとコントロール

 まず、スイングウェイトの原理です。

 物理の専門用語で言うと「慣性モーメント」です。簡単に言えば回転運動時の加速・減速のしにくさです。 

 テニスで言うと、体の軸を中心としラケットを回転させています。慣性モーメントが大きければ大きいほど、ラケットを振った時加速しにくくなりますし、打った後はラケットが止まりにくくなります。

 慣性モーメントの大きさ

 慣性モーメントの大きさは、M(重量[kg])×r^2(半径[m]の2乗)で求めることができます。

例えば、
1mの棒の先端に2kgの鉄球を付けると慣性モーメントは2J(J=ジュールといい、エネルギー量を表す単位)です。
2mの棒の先端に1kgの鉄球を付けると慣性モーメントは4Jです。
つまり、距離が2倍になれば、4倍加速しにくくなります。

 難しい方は「距離が2倍になると4倍加速・減速しにくくなる」ということだけ覚えておいてください。

 テニスラケットのスイングウェイト

 テニスラケットは、重量が一点になく、グリップ部分からラケットヘッドまで重量が分散しています。したがって単純計算では慣性モーメントを出せないので、スイングウェイト計測器で計測します。

 どのように計測するかというと、グリップエンドから約10㎝の位置を回転軸とし、一定の力を掛けた時に「どれくらいラケットが加速・減速しにくいか」を計測します。

 だいたい、ピュアドライブ(300g320㎜)で320、スピードMP(300g320㎜)が328、ピュアストライク(305g320㎜)が327、ピュアストライク18×20やブレード18×20(305g320㎜)が330半ば、TF40 305(305g325㎜18×20本)が326、プレステージMP(320g310㎜)が324位となっています(個体差がほとんどないと仮定・ガット込)。

 これを見てみると、(特にブレードとTF40)重量とバランス位置に対するスイングウェイトは意外と法則性がなく、実際の振り抜きもTF40の方が良いです(実際には空気抵抗もある)。飛びに関しても、一般的にスイングウェイトが多いほど飛びますが、TF40はスイングウェイトが軽いのにブレードやピュアストの18×20より飛ぶなどと、法則性がありません。振り抜きに関しても、324位のピュアアエロは空気抵抗で結構良くないですが、ピュアスト16×19の327の方が圧倒的にいいです(スイングウェイト的に悪く感じる人もいる)。

 スイングウェイトは、絶対的な数値ではなく、あくまで参考数値にしかなりません。

 実際のスイングウェイト

 テニスラケットのスイングウェイトは、グリップエンドから約10㎝の位置を回転軸にし、ラケットがどれくらいか減速しにくいかを測っています。しかし実際にボールを打つ時は、体の中心が回転軸です。

 したがって、ラケットのスイングウェイトが変わらないからと言って、グリップ部に荷重すればラケットが加速しなくなります。プロスタッフRF97を振ってみれば分かりますが、ラケットヘッドの振り抜きはそこまで悪くはないですが、グリップ部分が加速しにくいです。手首に重りを付けて振ってみても同じような感じになります。

 ラケットのコントロール性

 現代のテニスは「スピードテニス化」してきており、ATPやWTAのトップ選手でもフレームショットを連発してしまうほどです。

 例えば右利きのフォアハンドストロークで、ラケットの3時側(トップを12時とする)でボールを打ってしまった時、ラケットの下側が押されるためフェイス面が下向きに回転してしまいます。そうなるともちろんボールがネットにかかります。逆に9時側で打ってしまうとフェイス面が上を向き、ボールがコートの奥(アウトエリア)に飛んで行ってしまいます。

 この面ブレを抑えるのが、ラケットの左側&右側の重量です。

 これはラケットのトップからグリップ部のラインを軸とした慣性モーメントで決まります。例えば、3時側&9時側にまったく荷重がなかった場合に(極端な例)、オフセンターショットをしてしまうと全くボールが飛びません。逆に、3時9時の位置に100gの荷重があった場合、完全なオフセンターショットでもコントロールが乱れることなく飛んで行きます。

 面ブレを抑える荷重は「慣性モーメント」なので、荷重が回転軸(ラケットトップからグリップのライン)からの距離が遠ければ遠いほど、面ブレを抑制します。もちろん回転軸からの距離が2倍になれば、4倍の効果があります。




 重りを付ける位置による違い

 ラケッドヘッド

 まず、ラケットにもよりますが、トップに2g荷重すると、スイングウェイトが6[kg・㎝^2]程度上がります。

 コントロールは上がりませんが、スイングウェイトが上がるため、反発力が上がります。「静止重量は上げたくないけど、反発性を上げたい」という方におすすめの位置です。

 3時&9時の位置

 3時&9時に1gずつ(計2g)荷重するとスイングウェイトが4[kg・㎝^2]程度上がります。

 3時&9時の位置が、コントロールの上昇値が一番良く、反発も少し上がる位置なので一番お勧めです。

 3時&9時の位置はラケット自身の回転軸から一番遠い位置にあるため、荷重に対しコントロール性が一番上がります。また、少し3時(&9時)側で打ってしまっても、しっかりと飛ぶようになります(スイートエリアが横に広くなる)。

 フェデラー・ディミトロフ・錦織選手らが使っているラケットは、PWSといって、3時&9時の位置に膨らみを出し、カーボンや内部のウレタンの増加量で荷重を増やしています。また、ジョコビッチ・大坂なおみ・ティエム・ワウリンカなども、3時&9時の位置に荷重しています。特にジョコビッチに関しては、95インチの特注ラケット(市販品は100インチ)なのに、2時⇒4時の位置に貼っています(前は2時⇒5時)。それだけ3時&9時の側の局所荷重は重要なのです。

 トップに貼って高反発になってもコントロール性が良くなければ、その反発を活かせませんし、左右のオフセンターショットのリカバリー能力も高くないです。

 プロ選手の中には、内部のウレタンの重量を増やしコントロール性・反発性を上げている方も多いと思いますが、それでは、スイングウェイトに対するコントロール性のコスパがそこまで良くないです。

 2時&11時の位置

 日本で一番多く言われている2時&10時の位置では、1gずつ荷重するとスイングウェイトが4.5[kg・㎝^2]程度上がります。

 3時9時の位置よりも、コントロールの上昇値が低いですが、その分高反発になります。

 正直「反発と面ブレの抑制の両立」とか言いわれますが、面ブレは「距離の2乗」抑制効果があるのでできるだけ遠くに荷重したいです。したがって3時&9時の位置に多めに荷重しスイングウェイトをそろえた方が、同じ飛びでコントロール性は高いです。

 もちろん「静止重量を抑えて、コントロールも反発も欲しい」というのもだめではないです。日本のプロ以外ここをメインで貼っている方は見たことがないです。貼る量が多ければ、2時~4時(10時~8時)の位置がベストです。

 5時&17時の位置

  5時&17時に1gずつ(計2g)荷重するとスイングウェイトは2[kg・㎝^2]程度上がります。

 正直ここの位置は、総重量の割には、反発性もコントロール性も大きく上がりません。

 この位置に付けるくらいなら、3時&9時の位置に0.5gとかの方が良いと思います。以前のジョコビッチや大坂なおみ選手のように20㎝位付けるのなら、2時⇒5時(10時⇒7時)の位置でも良いと思います。

 スロートの位置

 バランス位置を崩したくなくて「スロートに付けるのはどうか」というのも、5時&7時以上に効果が薄いです。荷重するメリットが一番ない位置です。静止重量に対するパフォーマンスが低いです。

 グリップの位置

 グリップの位置に荷重しても、反発&コントロールはほとんどと言って良いくらい変わりません。ただ、この位置の荷重はメリットもあります。

 テニスラケットは同じ重量&スイングウェイトだと仮定すると、バランス位置がトップになればなるほど、遠心力というラケットが遠くに行こうとする力が働きます。そうなることで、ラケットが体の回転軸から離れるため、実質のスイングウェイト(ラケットのではなく)が大きくなり、ラケットの加速・減速がしにくくなります。

 そこで、グリップ部に荷重することによって、その重量分の慣性力(静止し続けようとする力)が働き、遠心力によるラケットの移動を抑えます。そうすることで、ラケットの操作性が上がります。ただ、グリップ部分でも体の回転軸からは離れているため、ラケットのスイングウェイトが変わらなくても振り抜きにくくなります。

 また、グリップエンドギリギリの位置に荷重することによって、ラケット全体は重くなりますが、手首を使ってラケットヘッドを持ち上げやすくなるため、操作性が良くなり、ボレーの安定や、スピン量の増加・オフセンターショットの低減効果などが見込めます。かなり重要です。

 現象の理由としては、「モーメント」で、公園などにあるシーソーのようなものです。同じ重量でも回転軸から遠ければ遠いほど下向きの力が強くなります。例えば、回転軸の左側1mに2kgの荷重があり、右側に2mに1kgの荷重があった場合、そのシーソーは静止します。だいたい回転軸がグリップエンドから5㎝位ですが、グリップエンドに荷重することによってラケットヘッドの重さ(モーメント)がある程度相殺されるので、ラケットヘッドを持ち上げやすくなるのです。

 できれば、グリップ全体ではなく、グリップエンドキャップの位置に荷重するのがベストです。




 荷重調整の仕方

 まず、上記にスイングウェイトの大体の増加量を書いてありますが、あくまで参考にしかなりません。飛び・コントロール・振り抜き・スピンなどの様々な要素は、数値では判断できないからです。どこまで荷重するかは、実際に貼って打ってみなければ、分かりません。

 用意するもの

 ・重りテープ(リードテープ・鉛テープ・レッドテープ)※6㎜タイプならほぼすべてのラケットに対応
 ・マスキングテープ※6㎜の重りを貼るなら8㎜位
 ・硬貨
 ・セロテープ
 ・重量はかり(必要なら)

 貼り方

 まず、ラケットヘッド側です。ウェイトを張りたい位置にマスキングテープを貼ります。このマスキングテープがあることで、何度も調整できたり、塗装の剥離防止になります(弱粘着のため)。逆に事前にマスキングテープの上に1gや0.5gずつウェイトを貼っておいても良いです。

 次にグリップ側です。グリップ側は、硬貨を使います。この方がウェイトテープが無駄にならないので。基本的にはセロテープでグリップエンドキャップに硬貨を取り付けます。1円は1g・500円は7g程度です。マスキングテープだと接着力が弱いので、セロテープがおすすめです。グリップが痛んできている場合は、マスキングテープの方が良いかもしれません。

 貼る位置・量の調整

 やっと本題に入ります。

 まず希望する貼り付け位置を選びます。おすすめは、絶対に3時&9時の位置です。

 選んだ位置にマスキングテープを貼ります。その上にウェイトテープを貼ります。貼る量は、3時9時の場合0.5gをラケット左右&前後の計2gか、1gずつで計4gずつ(多く荷重したければ)のどちらかが良いと思います。貼る位置がトップ側になれば少し少なめに張ってみてください。

 その後、試打をします。グリップエンドの荷重調整をしながら、フラットドライブ・ロブ・スライス・ボレー・ドロップ・サーブ・スマッシュ等様々なショットを打ってみてください。また、相手にもどんなボールが来てたか聞いてみてください。ボールスピードはもちろんですが、コントロール・振り遅れの少なさ・安定感(ミスの少なさ)・ボールの攻撃力等が良ければ、+αの荷重をします。逆に振り遅れやオフセンターショットが多かったりした場合は、荷重を減らして試打します

 ちなみにグリップエンドの荷重ですが、ダブルスプレイヤーはグリップヘビー、シングルスプレイヤーはグリップライトを選ぶことが多いです。両方やる人は320~330㎜程度(ガット込(ラケットが320㎜なら約330㎜になる))に合わせておけば良いのではないでしょうか。ボールペンなどのペンや物干し竿などにラケットを乗せスケールで測ればバランスは計測できます。また、ラケットヘッドに1g荷重すれば1㎜程度トップヘビーになりますし、グリップの荷重も同様です。

 これを連続で行い、1g以内(合計)まで絞っていきます。たかが1gかもしれませんが、これだけで結構変化します。ストローク速度も変わりますし、サーブ速度も変わります。ただ、気をつけないといけないのが、「試合時間中常にパフォーマンスが出せるか」です。疲れてくるとスイングスピードが遅くなります。そこでコントロールが乱れれば本末転倒です。ある程度セッティングができたら、実際の試合時間を想定して試打してみてください。

 最後に、荷重量が決まったら、本貼りしていきます。一応マスキングテープも重量があるのでマスキングテープと重りテープの重量をはかりで計ります。その後、重りテープをその重量で切り、貼っていきます。グリップエンド側は、こちらも重量を計測して、重りテープを切ります。グリップエンドキャップの中に貼っても良いですし、元グリップを外して張っても良いです。ただし、グリップエンド側に貼った状態でセッティングを出しているのでできるだけエンド側に貼ったほうが良いです。(マスキングテープをグリップの上に貼って荷重調整していく方法もなくはないです。)その後、最終試打して完成です。

 ※本貼りの際、貼る位置の汚れを取ってください。また、洗剤やパーツクリーナー(塗装のダメージ注意)などを使い、油脂を取ってから貼ると剥がれにくくなります。身近にあるものだと中性洗剤で、タオルに染み込まして拭いた後、水拭きします。




 まとめ

 基本的に荷重する位置は、「ラケットフェイスの3時&9時の位置」と、「グリップエンドキャップ付近」がベストです。

 荷重するかしないかについては、軽いラケットを買ってでも荷重した方がラケットパフォーマンスが上がります。ジョコビッチがその証拠です。

 また、振り抜きが良いのに飛ばないラケットや面ブレを起こしやすいラケットは荷重する方がベストなパフォーマンスが出せます。一例としては、プロスタッフ97(315g)・VCOREPRO(310g)・グラビティMP・インスティンクト・ピュアドライブ(スピン量を考慮する必要あり)・ピュアドライブVS・ピュアアエロVSなどです。

 プロスタッフについては、正直振り抜きは良いのですが飛びません。もちろん振り抜きが良ければスイングスピードが上がりやすいですが、スイングスピードが速ければ速いほど空気抵抗が増える(スイングスピードの2乗)ので、荷重したほうが(スイングスピードは落ちる)ボールスピードも出ますしミスも少なくなります。

 今持っているラケットの場合、「飛びすぎる」だとか「コントロールが欲しい(振り遅れが少ない前提)」と思う方は、特にカスタムした方が良いです。学生は基本的に必須ですね。