ジョコビッチが最強な理由は、ラケットのスペックと重りにあり

ジョコビッチが最強な理由は、ラケットのスペックと重りにあり

2021年7月6日 0 投稿者: gura

 グランドスラム19勝(2021年6月時点)・世界ランキング1位の期間が歴代最長・ダブルグランドスラム(4つのグランドスラムをそれぞれ2回以上優勝)、など様々な記録を残しているジョコビッチ。

 技術の高さはもちろんですが、ラケット選びにに関しても天才で、「最強になれるラケット」を完璧に作っています(要望を出している)。





 ジョコビッチのラケット

 ジョコビッチの市販モデルのラケットは、「スピードプロ」というもので、フェイス面積が100平方インチ・ストリングが18×20・重量が310g・バランスが315㎜・長さが27インチです。

 しかしジョコビッチは、実際にこのラケットを使っていません。実際は95インチのラケットを特注でヘッドに作ってもらっています。

 このようなことはトッププロには良くあることで、ナダルはアエロプロドライブ2005年ですし、メドベージェフは95インチの特注ラケットです。また、マレーなどは、プロ専用に設計された「プロストック」というものを使っています。逆に現行の市販モデルを使っているのは、ティエム・チチパス・フェデラー・錦織・セリーナウィリアムズなどと限りなく少ないです。


 ジョコビッチの実際のラケット

出典:https://olympics.com/
出典:https://tennisdouga.jp/
出典:https://www.theguardian.com/

 ジョコビッチのラケット画像を3つ掲載しました。上から2021~2020年・2015年・2010年の画像です。

 まずラケットの見た目ですが、過去のラジカルやG360+のラジカルのような、シャフト(スロート)部分の厚さが薄く、フェイス部も若干丸みを帯びたボックス形状フレームです。ストリングは、ウルトラツアー97やウルトラプロのように、かなり中心に寄っています。また、必ず鉛テープ(リードテープ)が付いています。

 ジョコビッチの現行(2021)のラケットは、フェイス面積95平方インチ・長さ27.1インチ(68.83㎝)、重量353g・バランス32.4㎝・スイングウェイト360・フレーム厚22㎜・ストリングが18×19・フレックス(RA60)です。

 過去のラケット(2018年以前)は、フェイス面積95平方インチ・長さ27インチ(68.58㎝)・重量353g・スイングウェイト370・ストリングが18×20です。怪我や不調で2018年に「アンドレ・アガシ」のアドバイスを受け現行スペックに変更しました。



 ストリング(ガット)

 ジョコビッチの張っているストリングは、バボラのタッチVSが59lb、アルパワーラフ(1.25か1.30㎜)を56lbで張っています。

 前はノーマルのアルパワー(1.25㎜)でしたが、変わったみたいです(ラフになったりノーマルになったりしている)。





 ジョコビッチのラケットが最強の理由

 1、コントロール性

 まず、 ストリング間隔がウルトラツアーのように、非常に細かいです。ストリング間隔が細かければ細かいほど、ストリングの移動量(特にスナップバック)が少なく、コントロール性が上がります。

 その証拠に、例えば、摩擦が大きくストリングが動きにくい「ミクロスーパー」などを、18×20のラケットや16×19のコントロールモデルに張ると、フラットドライブのコントロールがしやすいはずです。

 ただ、ウルトラツアーよりラケットのしなりを多くすることで、スピンをしっかりかけることができ、アングルショットも打てるようになっています。

 次に、一番注目してほしいのですが、「鉛テープ」です。

 世界のトッププロ選手は、ラケットを好みに合わせて作ってもらえるため、中に重いウレタンを注入し、コントロール性を上げている選手が多いです。しかしジョコビッチは、完全特注なのにわざわざ「鉛テープ」を貼っています。この鉛テープが、オフセンター(ど真ん中一点以外)ショットをしてしまった時の面ブレを抑制させます。フェデラーやディミトロフ・錦織圭選手などは、”PWS”というラケットの3時&9時の位置にフレームに膨らみを持たせ重量を増やしているラケットを使っていますし、大坂なおみ・ワウリンカ・ティエム選手などは、鉛テープを貼っています。

 PWSがあるプロスタッフ97(V13)(315g)を使ってみれば分かりますが、ストリングが動くしスピンがかかる割には、フラットドライブのコントロール性がかなり高いです。その重要性は一目瞭然です。もっと言えば、軽いラケットを買ってでも、荷重したほうがパフォーマンスが高くなります。

 ジョコビッチがどれくらい貼っているかと言うと、以前は「3g×前後左右で12g」、現在は「1.5g×前後左右で6g」位(推定)張っています(キモニーのリードテープ(スリムタイプ)を貼っているならば)。スイングウェイトは20位(1.5gの方)は上がっていると思います。



 さらに、縦ナチュラル×横アルパワーで、ポリ×ポリより、縦のナチュラルがポリより摩擦が多いため、スナップバック量が小さくてもスピンがかかります。そのため、フラットドライブのコントロール性&安定感が高いです。また、ポリストリング特有の癖のある伸び(一気に伸びた後少しずつ伸びる(RPMブラストなどをストリングマシンで引張ればわかる)など)がナイロンやナチュラルはないため、安定します。

 2、反発性

 どうしても、コントロール性を求めていってしまうと、ラケット的にボールが飛ばなくなります。

 そこで、ナチュラル×アルパワーの飛ぶストリングにすることで、95インチのコントロールラケットの飛び量の低さを補っています。

 もちろんフィジカルの強さもありますが、95インチのラケットはスイートエリアが狭かったりとデメリットも大きいので、飛ぶストリングを使えるからこそのセッティングです。

 3、スピン性

 ポリ×ポリで張ると、ボールとの摩擦が少ないため、しっかりスナップバックを起こし面圧(ストリングとボールの接地圧力)を上げてあげないとスピンがかかりません。

 逆にナイロン×ナイロンやナチュラル×ナチュラルで張ると、ボールとの摩擦は大きいのですが、ストリング同士の摩擦がスナップバックの力を弱めますし、軽く打ちたい時ストリングが動く時もあれば動かない時もあって不安定要素になります。

 そこで、縦ナチュラル×横アルパワーにすることによって、スナップバックが最小限でもしっかりスピンがかかります。ボールを持ち上げたい時もしっかり持ちあがりますし、スピンやスライスサーブの変化量も大きいです。スナップバックのリニアさもあるので、不安定要素の動かない時がないです。また、スピンがしっかりかけられるということは、ネットとボールのクリアランスをしっかり取れるためミスが少なくなります。「多角形なら良いのじゃないの?」と思ってしまいますが、多角形は多角形で、引っかかりが強すぎたり、球離れが速かったりとデメリットがあります。



 なぜジョコビッチを天才と称したのか

 一番は、プロ加入当初の張っていたストリングです。ジョコビッチはプロ当初、テクニファイバーの「エックスワンバイフェイズ(1.24㎜)」を張っていました。ツアーデビューが2003年で2007年途中で、エックスワンバイフェイズからアルパワー×ナチュラルに変更するまで使っていました。テンションは、50lb~60lb以上と結構変動してたみたいです。

 日本で言うと高校生~大学生時代(1987年生まれ)にナイロンマルチを張っていたことになります。当然筋力は相当あるわけで、かなり切れていたでしょう。2006年はオランダオープン(ATP500)・モーゼルオープン(ATP250)を優勝しているくらいです。一般の選手なら、エックスワンバイフェイズは高いですしすぐ切れるため、ポリストリングに行きがちですが、またラケットのスポンサーも、ウィルソン(当時)でした。それでもエックスワンバイフェイズを使ったことに対し、「天才」だと称しました。

 やっぱり、ポリストリングは、ストリングの伸びの癖があり精密なコントロールが難しかったり、ボールが伸びにくいです。また、スピン量も、日本ではポリの方が多いと言われてますが、実際はスナップバックによる引っかかりが強いだけで、そこまでかかってません。もちろん多角形ストリングや、オリジナルやホークタッチなどは多くかかりますが(ミクロスーパーはかなり少なめ)、フラットドライブのコントロール性や安定性は、ナイロンのほうが高いです。こう言うと「筋力や技術があれば問題ない」とか言う人が出てくるでしょうけど、世界のトップで勝つためには、道具の妥協は命取りになります。


 そこで、エックスワンバイフェイズは、スピン量の多い丸型のポリストリングとスピン量が少ない丸型のポリストリングの中間位のスピン量があり、ネットとボールのクリアランスをしっかり取れる上、ボールを持ち上げやすいのでしっかりと安定感を出すことができます。また、ストリング同士の摩擦があることで、ストリングが暴れない(動き量も少ない)ため、フラットドライブが安定し、伸びも出しやすいです。ポリストリングのような癖もないですし飛びも強いので、ミスも少なくなります。



 二番目はラケットのウェイトです。ここまで多くの鉛テープを貼っている選手はほとんどいません(大坂なおみ選手も張っている)。見た目を気にして貼らない選手も多いですが、安定感を出すためにはかなり効果の高いカスタムだと思っています。




 まとめ

 ジョコビッチは、人一倍ラケット選びの天才です。ジョコビッチのラケットが一番オフセンターショットをしたときの面ブレが少ないと思います。

 ハイライトを見てるとかなりきついサーブでも、かなりえげつないリターンをしてることも多いですし。人間離れした安定感(特にアンフォーストエラーの少なさ)が、「安定感お化け」とも言えるほどです。

 ジョコビッチに近い安定感が欲しければ、テクニファイバーの「TF40 305」をカスタムして「アルパワー×ナチュラルorエックスワンバイフェイズ」を張ることをお勧めします。少し振り抜きがきつければ、プロスタッフやVCOREPRO97がおすすめです。


※あくまで、過去の経験から科学的に考察したものです。