反発力でテニスラケットを選ぶのがほぼ無意味な理由

反発力でテニスラケットを選ぶのがほぼ無意味な理由

2021年4月8日 0 投稿者: gura

 「日本人は筋力が少ないからピュアドライブなどの飛ぶラケットを選ぶ」・「ピュアドライブ最強説」や「薄ラケは反発系ラケットでは飛びすぎてしまう人が使う」などと、飛びの控えめのラケットはネガティブにとらえられ、逆に高反発モデルはポジィティブにとらえられることが多いです。しかしこれは間違いです。高反発ラケットには意外とボールスピードが出せない訳があります。





 高反発ラケットでボールスピードを出せない具体的な理由

 高反発ラケットは基本的に、エネルギー損失の原因であるラケットフレームの歪みを極力減らすため、フレームのしなりをなくすなどフレームの剛性を高めています。ただフレーム剛性を高めすぎると、衝撃吸収性が悪かったり、ホールド時間が短すぎたり、スピンがかからなかったりするため、ストリング間隔を広げて(目を粗くして)います。


 ストリングのたわみ

 まず、ストリングの撓み量です。

 汚い絵で申し訳ないのですが、ボールを打った瞬間の絵です。赤い色が伸び量が多いストリング・青い色が伸び量が少ないストリングです。トランポリンで少し端で跳ねてもらえればわかりますが、センターからずれると真上に飛ぼうとしても、少しずれます。正直に言ってここまで極端ではないですが、わずかにずれます。

 高反発ラケットはストリング間隔が広いため、このたわみ量が多くなります。その結果コントロール性が低くなります。


 スナップバック

 次にスナップバックです。

 テニスウェアハウスさんから引用させていただきました。説明が分かりやすいと思ただけなので細かい文字はスルーしてください。

 ボールを打つ時、メイン(縦)のストリングが下に動きます。この画像で言うと「Slide」です。ボールはラケットに当たってからボールの威力が止まるまで、ラケットを後ろに押します。写真で緑の入射位置ならラケットが時計回りにブレ(回転する)、赤の入射位置ならラケットが反時計回りにブレます。ブレ量はフレームに近いほど大きくなります。

 つまり、スナップバック量が多ければ多いほど(高反発ラケットほど)、ラケットの面がブレるためコントロール性が下がります。

 ラケット重量とスナップバック

 最後にラケット重量です。

 ラケットの3時&9時側のラケット重量が、オフセンターショット時のラケットのブレを抑制します。この効果は距離の2乗(距離が1.2倍なら効果は1.44倍)となります。

 そのため高反発系ラケットの方が、横の幅が広いため、スナップバック量を考慮しなければ面ブレを起こしにくいです。ただ、高反発系ラケットの方がコントロール系ラケットよりスナップバック量が多いため、面ブレ量が大きくなります。

 コントロールモデルは、スナップバックの小ささによって、ブレなさを出し、コントロール性を上げています。ただ、97インチラケットなどになると、3時9時側の荷重の距離が短くなりますし、反発力も落ちるので、スイングウェイトが大きかったりします。




 薄ラケと厚ラケ

 高反発系のラケットは、フレームを硬くすることでエネルギー損失の元であるボールを打った時のフレームの歪みを抑えています。ただそうすると、打感の硬さだったりホールド時間の短さが出てしまうため、ストリング間隔を広くし、打球感の柔らかさや、しっかりとしたホールド時間を確保しています。ただデメリットもあり、ストリング全体のたわみ量の多さや、スナップバック量の多さによる、コントロールの乱れが生じやすいです。

 逆にコントロール系のラケットは、ストリング全体のたわみ量やスナップバック量をストリング間隔を小さくすることによって、コントロールの乱れを抑えています。ただ、打球感の硬さやホールド時間の短さが出てしまうため、フレームのしならせることによって、ホールド時間の確保やスピン量の確保をしています。


 余力の量

 正直、市販の状態のラケットで、ボールスピードが一番出せるラケットは、高反発モデルとは限りません。高反発系ラケットは、高反発ですがコントロール性が低いです。

 つまり10のパフォーマンスを出せるとして、高反発ラケットは、スイングスピードに6・コントロールに4という感じに意識を向ける必要があります。逆にコントロールモデルは、低反発ですがコントロール性が高いです。つまり、スイングスピードに8・コントロールに2という感じで、余力が少なくても問題がないです。したがってボールスピードの差はほとんどないどころか、コントロールモデルの方がウィナー速度が出ることも多いです(ティエム・ジョコビッチ・マレーなど)。

 余力以外

 丁寧に打てばコントロールは、ある程度はカバーできます。ただ、繊細なコントロールと安定性(ムラの少なさ)は、コントロールモデルだけでしか出せません。スピンが多いラケット&ガットは、フラットで打った時と引っかけて打った時の差が大きく、意図しないスイングになってしまった時に、そのミスが顕著(大きく)に出ます。

 ”滑ってくるような”ボールの伸びに関しては、コントロール性や安定性が高いラケットの方がネットギリギリをフラットで打ち抜けるため、コントロールモデルの方が良いです。



 サーブは、バウンド時の変化やタイミングなど、コントロールが乱れる要素が少ないため、高反発ラケットの方が威力もありますし、回転もしっかりかかるためいいと思います。絶対的な精度は薄ラケですが。

 ボレーは、高反発ラケットの方が当てるだけで返るため、壁になれます。一方薄ラケの方が、コントロール・安定感が高いです。


 証明

 下の動画は、ヨネックスのEZONEとVCOREPROをそれぞれ使ったダブルス動画ですが、EZONEはかなり丁寧に打ち、VCOREPROはしっかり振っていると思います。また、VCOREPROの方がきついボールに対してきつく返していることも多いと思います。逆にEZONEは、ブロック的なショットが多いと思います。



 プロ

 ATP(男子)で優勝している選手が使っているラケットは、ジョコビッチが95インチの18×19(前は18×20)だったり、マレーは、市販品がラジカルですが実際は、フレックスが59(プレステージMPよりしなる)のラケットを使っていたりします。身長が日本人と同じくらいの170㎝位しかないシュワルツマンも現行で言うプレステージMPを1インチ(2.54㎝)長くして使っています。WTAでも、ピュアドライブを使っている選手もいれば、ブレードの18×20(V7)を使っている選手もいます。

 WTA選手が使い始めたように、以前はしなりが大きいラケットはかなり飛ばなかったのですが、現在はカーボン技術などで飛ぶようになってきており、めちゃくちゃ使いやすくなってきています。

 つまり、筋力がないからと言って、「高反発のラケットを使えば勝てる」という事実は全くもってありません。

 フェデラーやジョコビッチ・ブライアン兄弟らは、面が大きくなったりストリング本数が少なくなったりしましたが、これは、使っていたラケットの操作性がきつくなってきたからだと考えられます。操作性を上げるためにラケットを軽くすると、自身の求める量まで飛ばなくなるため、少しラケット自体を飛ぶようにします。




 テニスラケットの選び方

 テニスラケットで一番大切なのはプレースタイルです。フラットドライブ系・スピン系・反発系・シコラー(粘り強くディフェンスする)・バコラー(バコバコ打つ)が大まかのプレースタイルです。そうすることで安定感・攻撃力などが最大限になり、試合で勝てるようになります。


 高反発系ラケットの特徴

  まず飛びとコントロールですが、飛ぶけどコントロール性が低く丁寧に打たないとコントロールできない。(スピン系は特に)

 しっかり振らなくて良いため(ネガティブに言えば「振ってはいけない」)、省エネ。体力的に楽。

 飛びのスイートエリアが広い。

 サーブは高反発・高回転のメリットを活かせる。(絶対的な精度は薄ラケだが、ストロークほど影響しないため)

 ボレーは、薄ラケに比べ絶対的な精度や安定感がないが、当てるだけで返るため、壁になれる。

 薄ラケの特徴

 飛びは良くないがコントロール性が良いため余力が少なくても問題ないため、高反発系ラケットとボールスピードはそこまで変わらない。

 スナップバックが小さい影響で面ブレが少なく、コントロールのスイートエリアが広い。

 特にストリングが18×20などスピンが少なめのラケットは、フラットで打った時とスピンで打った時の差が大きくないため、ムラが少ない(安定感がある)。また、滑ってくるようなボールの伸びが出やすい。つまり攻撃力が高い。

 ボレーも、精度&安定感が高い。つまり攻撃力が高い。

 スイングウェイトや静止重量が大きくなるため、振り抜きに難が出るようだと逆にパフォーマンスが下がる。(問題なければ重い方(コントロールモデル)が連続でいいボールが打てます)




 テニスラケットの差

 正直テニスラケットは、公表スペックだけでは性能を判断できません。

 物にもよりますが、100インチより98インチの方が飛ぶラケットもありますし、ストリングが16×19でも、18×20のラケットよりも飛ばないラケットもあります。また、「薄ラケ&98インチ以下のラケットの操作性が高い」とも言い切れず、薄ラケでも総重量やスイングウェイト・空気抵抗などで振り抜きやすさが変わります。個体差による性能の差もあります。さらにコンセプトも重要になります。




 おすすめラケット一例

 全部打ったことがないのと、個体差によって差があること、人によってそれぞれフィーリングが違うことがあるため、公表スペックあたりのラケットを使い複数人数で行っているtennis warehouseさんのスコアを参考にさせていただきます。

 スコアは80切ると少し気になるかな?という感じで、90以上だとトップクラスの性能です。コントロール・安定性・打感の柔らかさの項目においてストリングが16×19のラケットは、85以上だとトップクラスです。

 高バランス系・スピードMP

 反発87(飛ぶ黄金スペックは87・88位)・コントロール85・取回し85・安定性85・柔らかさ84・トップスピン88・スライス86

 スピードMPは、超高バランスラケットです。スイングウェイトは327と重め(ピュアドライブが320)ですが、フレームが少し薄いことで空気抵抗が少なく、振り抜き性は落ちていません。使ってみると非常に使いやすいラケットです。主婦層の女性が複数使っていますが、かなりパフォーマンスが高い(男性にも打ち負けない)です。


 反発系・ピュアドライブ

 反発92・コントロール80(黄金スペックの平均)・取回し85・安定性85(16×19の中では高め)・柔らかさ82(16×19の中の平均)・トップスピン83・スライス86

 2018年モデルは反発が88でしたが、92まで上がりました。コントロール性を上げた分スピン量は黄金スペックの中でかなり少なめでした。どちらかというと2018年モデルはスピン系で2021年モデルはフラット系です。勝てるか勝てないかは別ですが、圧倒的な反発力なので、圧倒的に「楽(体力)」です。


 コントロール系・プロスタッフ97(315g)v13.0

 反発79・コントロール87・取回し85・安定性83・柔らかさ86・トップスピン84(トップ)・スライス85

 フェイスの3時9時の位置にPWSという局所荷重(膨らみ部分)があることで、面ブレを抑制できるため、ストリングが16×19本の中ではコントロール性がかなり高いラケット。飛びは少し控えめですが、しっかりフラットで打てるため、ボールスピードはそこそこ出ます。ボックス形状特有の打感の良さもあります。

 コントロール系・TF40 305

 反発81・コントロール88・取回し82・安定性87・柔らかさ88・トップスピン83・スライス88

 「305」は海外でも日本でもネガティブな評価が圧倒的に少ないです。305g・325㎜と一見重そうですが、スイングウェイトは326と以外にも軽いためきつくありません。18×20のブレードやピュアストはスイングウェイトが330半ばです。グロメットホールが大きかったり横のストリングの縦幅が大きかったりと高反発モデルのような設計です。ただ、ストリングが18×20本であるのと重量の分面ブレが起きにくいです。プロスタッフ(315g)より飛びました。

 TF40 305(ストリングが18×20)のラケットを使っていると、「よくそんなハードなラケット使っているね」と言われますが、体力と引き換えに、繊細なコントロールや安定性を得ているだけです。ピュアドライブが「最強・勝てる・楽」なら、プロは全員使ってます。ピュアドライブなどの高反発系ラケットにはデメリットも存在するのです。