伸びのあるストロークを打ちたいならスピンをかけるな

伸びのあるストロークを打ちたいならスピンをかけるな

2020年8月4日 0 投稿者: gura

 伸びのあるストロークは、回転(トップスピン)とボールスピードの両立ではありません。トップスピンが多いフラット系のショットは、バウンド手前やバウンド時にかなり減速し、軽いボールになります。

 このページでは、科学的に伸びのあるボールの打ち方について解説しています。





 伸びのあるボールとは

 伸びのあるボールは、先ほども述べましたが、高スピン、高スピードではありません。

 一般的な世界のプロのトップスピン量は2700~2800rpm(rpm=1分間当たりの回転数)と言われていますが、4大大会14勝(全豪2勝・全英7勝・全米5勝)したサンプラスは、アベレージで約1700rpm、同じく3勝(全米1勝・全英2勝)したマレーはで2200rpmと、非常に少なくなっています。 

 高スピンと高スピードボールの両立が伸びるボールの条件なら、この二人は軽い球しか打ててなく、「ストロークの強さがない」ということになってしまいます。

 伸びるボールの種類

 伸びるボールは、2種類の打ち方があります。

 1つ目は、ナダルのような、高スピンのエッグボールです。バウンド時に加速しているようなボールが向かってきます。(以下、高スピンボール)
 

 2つ目は、フラットドライブで打った、バウンド時に滑ってくるようなボールです。(以下、フラットボール)


 伸びるボールの原理

 バウンド直前の速度

 上の画像のバウンド手前の四角形(底辺の長さが水平方向の速度・側辺の長さが垂直方向の速度、と考えてください)を見てみると、エッグボール(高スピン)の方が水平方向の速度が小さいです。つまり、ボール速度が遅く感じます。

 しかし、エッグボールはバウンド時に伸びてきているように感じることがあります。その理由は、バウンド時のボールとサーフェスの引っかかりによって、推進力となり、バウンド前の水平方向の速度よりバウンド後の水平方向の速度が若干早くなっているように感じるからです。

 フラットボールは空中での水平方向の速度の減速量が少ないため、バウンド後の速度も速いです。そのため伸びているように感じます。

※画像内の四角形の対角線は、同じ時間あたりの移動速度になっています。

 バウンド

 テニスにおいて、ボールがバウンドするときは、必ず減速します。伸びてきているように見えるのは、自分の想像していたボールより水平方向の球速が速い場合です。


 摩擦抵抗(減速量)は、F=μ×Nです。
 Fが摩擦抵抗、つまり、減速量に比例します。
 μは、摩擦係数で、ボールとサーフェス間の摩擦で決まります。これは、不変です。
 Nは垂直抗力です。簡単に言うとボールとサーフェスの接地圧力です。これは、トップスピンによるダウンフォース(下向きの力)と、位置エネルギで決まります。ダウンフォースは回転量が多くなればなるほど大きくなります。また、位置エネルギーは、m(ボールの質量)×g(重力加速度(9.8))×h(地面からの高さ)で表すことができます。つまり、回転が多くネットの高いところを通せば通すほど、減速量が大きくなることが分かります。

 これらを総合すると、回転量が少なく、ネットののクリアランスが少ないほど減速量が少なく、滑ってくるような伸びるボールになります。

 

 次にボールの引っかかりによる伸びを考慮します。ほぼ垂直に落ちた場合、その回転が推進力になります。しかし、垂直でなくなるほど、ボールが上に跳ねてしまいます。ボールの持つエネルギーがバウンドにより増えることはないので、上に跳ねた分、水平方向の推進力はなくなります。スーパーボールで実験してみればわかりますが、同じ回転数の場合、垂直に落とせば伸びますが水平に近いほど、上に跳ね推進力がなくなります。

公式の出典

 逆に、伸びのないボール

 逆に伸びのないボールとは、スピン量が多めのフラットドライブショットです。

 ネットとのクリアランスが多く取れ、一番安心して打てるショットですが、バウンド直前の推進力が少ない上、バウンド時の減速量が多いため、どんなに初速を速くしても、軽々返球されてしまいます。

 さらに、コースも甘かった場合、打点が高くなるため、相手にとってはチャンスボールになることも多いです。




 伸びるボールの打ち方

 高スピンボール

 高スピンボールは、できるだけバウンド直前の横方向の推進力をなくすとボールが伸びているように感じ、打ち返しにくいボールになります。

 また、横方向の推進力を少し残すと上にも跳ねるため、相手があまり力を入れて打てないショットになります。

 水平方向に速いボールは、高スピンの場合、減速量が多いため、できるだけ回転をかけないように工夫する必要があります。

 フラットボール

 フラットボールは、トップスピンの回転量が極力少なくし、ネットのギリギリの高さを通すことで、非常に伸びのあるボール(滑ってくるようなボール)が打てます。また、通常は回転をかけるために斜め上方向にスイングをしますが、水平にスイングすることで、上方向に行っていた力も水平方向に加えることができ、ボールの水平方向の推進力も大きくなります。

 前述した通り、フラットボールは水平方向の推進力が非常に大きく、バウンド後の速度も速いため、伸びのあるボール(伸びを感じるボール)になります。また、打点が低くなるため、非常に打ちにくいボールになります。

 ただ、常にネットギリギリのフラットショットを打っていれば、ミスでの失点が多くなるため、普段はある程度のトップスピンをかけ、ウィナ―など打っていける時は、フラットで打っていく必要があります。






 伸びのあるボールを打つセッティング(フラット系)

 ラケット

 フラット系の伸びるボールを打ちたければ、ストリングの目が細かいラケットです。細かくなるほどスナップバックが小さく、スピンがかかりにくくなります。スナップバックが小さいことで、スナップバックによる面の乱れが少なく、ネットギリギリを通すことができ、伸びのあるボールが打てます。中心付近の目が詰まっているものや、ストリングパターンが18×20のラケットなどです。16×19でも、高テンションで張れば安定して伸びのあるボールが打てます。

 ただ、飛ばない&スピンがかかりにくいというのはデメリットにもなります。

 サーブでは、スピンやスライスサーブの変化量が少なくなったり、スピードが遅くなったりします。フラットサーブのコントロールはしやすいですが。ボレーもしっかり押してあげる必要もあります。エッグボールで時間を稼いだり、相手を崩したりということも難しくなります。


 ストリング

 ストリングは、コントロール性が高いストリングを選ぶことが非常に大切です。また、多角形ストリングは控えた方が良いです。


 伸びのあるボールを打つセッティング(高スピン系)

 ラケット

 基本的にスピンをかけようとすればするほど、推進力が減っていきます。また多角形のスピン系ストリングはパワーアシストが多いものが少ないです。そのため、ピュアアエロやエクストリーム・ブイコア100などの高スピン系のパワーラケットがおすすめです。ただ、面が大きくフレーム厚が厚い場合、振り抜きが悪く、振り遅れ(特に片手バック)が生じやすいため、考慮が必要です。

 ストリング

 ストリングは、高スピン系がおすすめです。できればパワーアシストがあるほうがいいです。バボラのRPMブラスト、ルキシロンのオリジナル[レビューを見る]アルパワー[レビューを見る]などがおすすめです。

 ハイパーG等多角形の方がスピンの攻撃力はありますが、多角形ならではのデメリットもあるため注意が必要です。