錦織の使うウルトラツアー95の魅力と買うべきか考察(インプレ・レビュー)
2022年3月7日錦織圭選手が使うウルトラツアー95ですが、日本でのレビューを見てみると、ほとんどの方が「ボールの伸びがえぐい」と評価しています。
これには理由が合って、ウルトラツアー95特有の構造のためです。ラケット選びはもちろん、ストリング(ガット)選びの参考にもなるので、是非最後までご覧ください。
ウルトラツアー95CVのスペック
面積 | 重量 | バランス | スイングウェイト | ストリング | フレーム厚 | フレックス |
---|---|---|---|---|---|---|
97 | 309 | 325 | 339 | 16×20 | 21.5-21.5-21.5mm | 69 |
※スイングウェイトとフレックス(小さいほどフレームがしなる)は、tennis warehouseさんの実測値です。
まず、フェイス面積ですが、95平方インチと一般的な100平方インチや98平方インチラケットと比べると、少し小さくなります。1インチ=2.54㎝なので、5インチ違うと約32平方㎝違います。5インチと聞くとあまり大きく感じませんが、32平方㎝と聞くと結構大きく感じると思います。それから、他のラケットと比べるとかなり縦長のラケットです。
重量とバランスについては、結構重い仕様です。また、操作性を表す一つの目安である、重量×バランス=100425で、96000(300g320㎜)や97600(305g320㎜)が多い中、特別に重いラケットを除けば、かなり重い方です。
スイングウェイト[スイングウェイトとは]に関しては、339なので、330半ばのブレード18×20(V7)やピュアストライク18×20などより大きいです(ピュアドライブが320(2021年)~324(2018年)程度)。静止重量の割には重いです。
フレックスは、69なので、しなりにくいラケットです。69というとピュアドライブVS(RA68)やEZONE100(2022)(RA67)位です。
ラケットフェイスのスロートのフェイス側に「クラッシュゾーン」と呼ばれるプラスチックのバネ(グロメット部分)が付いています(ウルトラシリーズ特有)。これは、ホールド時間の向上や打感の柔らかさの向上などの効果があります。
ウルトラツアー95の魅力
1、縦長のフェイス
ウルトラツアー95は、他のラケットと比べてかなり縦長のフェイス(ストリングが張ってある部分)になっています。フェデラーの使うプロスタッフも若干縦長フレームだったりします。ただウルトラツアーにはかないません。
縦長のフェイスのメリットですが、一番は「フラットでしっかり振れるためボールの伸びを出し易い」ことです。
では詳しく解説します。
縦長のフレームは当たり前ですが、縦のストリングの長さが長く、横のストリングの長さが短いです。これがフラットの打ちやすさに貢献します。
フラットで打った時に横のストリングが短いほど、面ブレを誘発するスナップバックが大きくなる前に、ボールを弾き飛ばします。簡単に言うと、フラットで打った時面ブレが起きにくいのです。したがって、非力でも安定して球速を出せるがゆえに、誰でもボールの伸びが出せるのです。
一方ピュアアエロやエクストリーム等フェイスの横幅が広い場合、しっかりスナップバックがあるていど起きるまでホールドしてしまうため、ある程度スピンをかけて打った方が安定します。スイング力が少し上向きにもなっているため、水平方向の球速は意外と出にくいです(特にスナップバック量の多いポリを張った場合)。
ただ、フェイスの横幅が短いラケットは、スピンがかかる前にボールを弾き出してしまって、「スピンが足りない」ということになりやすいです。そこでウルトラツアー95は「クラッシュゾーン」というダンパーを縦のストリングに付けて、引っかけて打った時(縦振りした時)のホールド時間の長さによってスピンをかけています。
※滑ってくるようなボールの伸びは、トップスピンがかかってないほど伸びます。ただウルトラツアー95は、球速の速さもある(しっかりフラットで振れる)ためスピンによるバウンドの攻撃力も同時に出せます(スピンがかかってないとベースラインに収まらない)。
他のメリットとして、空気抵抗の少なさ(空気抵抗がかかりやすい先端のフレームの量が少ない)があります。
縦長のフェイスデメリットは、「フラットで打った時の打感の硬さと」、「面ブレを抑制する荷重の少なさ」、「引っかけて打てない」などがあります。
打感の硬さは、ストリングの伸び量が少ないため、衝撃を吸収しにくいためです。ある程度スピンをかけて打つと、クラッシュゾーンのおかげで硬く感じにくいです。
面ブレを抑制する荷重の量は、重量×(回転軸から)距離×(回転軸から)距離で決まります。したがって、横幅の短いラケットは(回転軸からの)距離が小さいため、面ブレを抑制する荷重が少なくなってしまいます。フラットで打っていれば問題ないですが、思いっきりスナップバックを起して打つと感じると思います。一応、「PWS」という局所荷重機構(フェイスの3時&9時の位置の膨らみ)によって、ある程度は確保していますが。
引っかけて打てないというのは、フェイスの横幅が小さい分、縦振りしすぎると、フレームの縁に当たりやすいからです。
2、クレーコートの強さ
クレーコートは球速が遅くバウンドが高いです。そのため中途半端に速いボールを打っても、軽々拾われてしまいます。
ウルトラツアー95の場合、高いボールをしっかりフラットで振り抜けるため、しっかり球速が出せます。また、少しだけ引っかけて打てばスピンもしっかりかかってくれるため、スピンによる攻撃力もあります。したがって、錦織選手のクレーコートの勝率は結構高めです。
逆にピュアアエロにアルパワーを20lb台で張っているマナリノや、ハイパーG(1.20㎜)を40lb台で張っているクエリーは、MAXのボールスピードの遅さやバウンドによる攻撃力が少ないため、クレーが苦手です。
ウルトラツアー95のショット
ウルトラツアー95はどちらかというとベースプレイヤー向けです。ベースプレイヤーでも、「ボールの伸び」を重視する方向けです。
ボレーに関しては、クラッシュゾーンのおかげでタッチショットはかなりやりやすいのですが、フェイスの横幅が狭い分、打感の硬さだったり、外した時の飛ばなさだったり、スイングウェイトの大きさだったり、少しデメリットが多いです。自身に余裕があれば大丈夫ですが。
他
セッティング
錦織選手は、縦にナチュラル・横にエレメントを40lb台で張っています。前は横に4Gを使っていたり、50lb台で張っていたこともありました。
縦にナチュラルガットを張ることで、ボールとガット間の摩擦が大きく働くため、スピン量が増えます。また、ナチュラルガットのコーティングは少し摩擦があるため、コントロール性が上がります。(ある程度摩擦がある方が止まってほしいところで止まってくれるため(スナップバックが速すぎても遅すぎてもダメ))
錦織選手が「なぜローテンションで張っていたか」ですが、「衝撃吸収性のよくなさ(4Gが柔らかくはない)によるけがの防止」や、「縦振りするとフレームショットになりやすいためフラット気味に振ってもある程度のスピン量が欲しかったから」だと考えられます。4Gからエレメントに変わったのも同様の理由だと思います。闇雲に「ローテンションが良いから」ではないと思います。
ラケットのせいもありますが、バウンド後の球速が速くイレギュラーバウンドしやすい芝は苦手です。また、安定感が足りない(苦手に対して)とも言われてるくらいです。
一応、他のラケットでもウルトラツアー95に似たような感じにできます。横にはフラットで打った時の弾きが少し早めの「アルパワーラフ(ベスト)」か「アルパワー」を張って、縦には少しホールド感強めでスピン量の調整がしやすい「エックスワンバイフェイズ(1.30㎜)(ナイロンマルチ)[レビューを見る]」「ナチュラルガット(ベスト)」や「ホークタッチ(高コントロールのポリ)[レビューを見る](ポリのベスト)」「プラズマヘキストリームピュア(高コントロールの多角形ポリ)[レビューを見る]」(ハイパーG(多角形ポリ)[レビューを見る])などを張ると比較的再現できます。
まとめ
ウルトラツアーは、デメリットもありますがフラットが打ちやすく、誰でもえげつないボールの伸びがあるショットを打てるラケットです。
スイングウェイトが339と少し重い上トップヘビーかつ縦長のラケットなので、片手バックの方は、しっかり筋力がないと厳しいかもしれません。