ストリング(ガット)をローテンションで張るメリット・デメリット
2021年7月20日ストリング(ガット)を、40lb前半や30lb台であることを「ローテンション」・「低いテンション」と言います。日本では「打感が硬い」に非常にネガティブなイメージを持っていて、多くの人が低めのテンション(40lb~50b)で張っています。
しかし、ローテンションで張ることは、メリットもなくはないですがデメリットも多く、ローテンションで張る場合は注意が必要です。
ローテンションで張るのとハイテンションで張るのの違い
反発
ローテンションで張ることでわずかに反発力が上がります。
ただ、日本人はストリングの弾き感を「飛ぶ・飛ばない」の材料にしていることが多く、より飛んでいるように感じる人もいます。ただ実際は、ボールの弾き感も必要ですが、わずかにしか反発は上がりません。
一応その証拠ですが、日本で最高反発といわれる「ポリツアーファイア【インプレを見る】」は反発が[1/5点]と、かなり飛ばないストリングですし、「ハイパーG【インプレを見る】」も標準の飛びだとか言われますが、反発は[1.5/5点]」で飛ばないストリングです(ストリングの弾き感は強いがボールの肘期間は弱い)。海外評価は「飛ばないストリング」という意見が多いです。なぜストリングの弾き感が強いのに飛んでいないかというと、スイングの力がボールに伝わっている時間が短くなっているためです。
コントロール
コントロールは高テンションで張ったほうが上がります。高テンションで張ることでストリングのたわみや、面ブレを起こすスナップバック量が少なくなるためです。
またショットのムラも少なくなります(高安定性)。したがって、高テンションで張る方が、相手の速いボールに対してもしっかり打っていくことができたり、ミスが少なくなります(以下で述べます)。
逆に、ローテンションで張ると、コントロール性の低下や安定性の低下が起きます。より丁寧なスイングというか、理想のスイングが求められます。逆にメリットは、ストロークのドロップショットの力加減がしやすいことです。
ローテンションで張ると反発性が上がるので丁寧に打てばコントロール性をある程度補うことができます。ただ、フェデラーのような絶対的なコントロールが欲しければ。高めのテンションで張ったほうが、良いです(高テンションの方が着弾点のブレ幅が少ない)。
ボールスピード
ローテンションの方がストリング自体の反発性が高いですがコントロール性が高くありません。逆にハイテンションの方が飛ばないですがコントロール性が高いので余力が少なくて問題ないです。したがって出せるボールスピードは同じです。MAXのボールスピードは、スピン量とか他の要素も影響しますが、影響しないと仮定すると、硬く張ったほうがボールスピードが出せます。
サーブだけはコントロールの影響を受けにくいため、ローテンションで張ったほうが、ボールスピードが上がります。
安定感(ムラの少なさ)
ボールスピードは、ローテンションで張ってもハイテンションで張ってもほぼ変わらないと言いましたが、安定感については別です。
まず、ローテンションで張ることでストリングのスナップバック量やたわみ量が多くなります。フラットで打った時はほぼ無回転で打てるとして、引っかけて打った時はかなりスピンをかけることができます。
一方、ハイテンションで張った場合、こちらもフラットで打った時にほぼ無回転で打てるとして、引っかけて打った時はスナップバック量やたわみ量が少なく、そこまで多くスピンがかかりません。
簡単に言えば、ローテンションの場合、フラットショットから最大スピンショットまでの幅が広いですが、ハイテンションの方は、フラットショットから最大スピンショットまでの差が小さいです。
また、コントロールの乱れの原因でもあるスナップバックも量が少なくなるため、オフセンターショット時の面ブレを抑制することができます。
これがどんな影響があるかというと、ローテンションの時、「フラットで打ちたいのにスピンになってしまった」・「スピンで打ちたいのにフラットになってしまった」というときのショットや、オフセンターショットをしてしまった時、本来描いていたイメージから大きく外れやすくなります。一方、ハイテンションの場合、イメージから外れるのは間違いないですが、外れ量が少なくなります。
したがって、ハイテンションで張ったほうが安定感が出る(ムラが少ない)わけです。ただ、ストリング自体の影響も大いにあります。相手のボールスピードが速く変化する場合(スピンショットやサーブ)は、少し硬めに張ったほうが良いです。また、ラインぎりぎりなど絶対的なコントロールをしたい場合もハイテンションで張ったほうが良いです。
ホールド時間
ローテンションで張ることでボールのホールド時間が長くなります。そうすることでドロップショットなどのタッチショットがしやすくなります。
ボールの伸び
コントロールや安定感が高い方が、ネットギリギリを低スピンで打てるため、滑ってくるようなボールの伸びを出しやすいです。
したがって、ハイテンションの方が滑ってくるような伸びが出しやすいです。
一方ナダルのようなスピンを攻撃力として使う場合、少しスピン量が多くなったほうがいいため、少しローテンションでも問題ありません。ただし、上級者になればなるほど滑ってくるようなボールの伸びも欲しいので、整合性を取る必要があります。ナダルも、ピュアアエロドライブ2005(2019よりストリング間隔が細かくコントロール系(スピンが少ない))にRPMブラストの1.35㎜という太ゲージを55lbとかで張っています。
逆に、滑ってくるような伸びではなく、バウンド後の高さや変化量が欲しければ、ローテンションで張る方が効果があります。
打感
ローテンションで張ることで打感が若干マイルドになります。ただ、衝撃吸収性はストリング本体の影響の方が大きいです。衝撃吸収性の悪いストリングを緩く張っても、衝撃は強いです。
怪我
基本的にローテンションで張ったほうが、衝撃吸収性が高くなります。ただ、テニス肘・ゴルフ肘・手首など、怪我をしたからと言ってローテンションで張ると、コントロールの低さをカバーするために変に力が入り、余計ひどくなることもあります。
特に、手首の怪我がしやすいです。
衝撃吸収性が良いストリングは、ナイロンマルチはエックスワンバイフェイズ【インプレを見る】、ポリはアイスコード【インプレを見る】がおすすめです。エックスワンバイフェイズは、ナチュラルを除く全ストリングの中でトップクラスの衝撃吸収性です。一方アイスコードは、ポリの中でトップクラスの衝撃吸収性はもちろんですが、ナイロンマルチを含めた中でも高めの衝撃吸収性です。どうしてもナイロンマルチは切れてしまうという方におすすめです。
テンション維持
ローテンションで張ることで、使っていない時のテンション下降を少し抑えることができます。しかし、実際に使うときは、ストリング全体ではなく局所的に力が加わるため負荷が大きくなります。したがって、打った時の負荷で伸びていってしまうため、使う頻度が多い人は、怪我のリスクの方が大きくなると思います。
太ゲージをローテンションで張ると、テンション維持が良くなります。ただ、ポリの場合は衝撃吸収性が基本的には落ちるので、1ゲージ太くした場合3lb~5lb程度落とすと良いでしょう。
ローテンションで張るとテンションが下がってきた時にコントロールしにくく感じやすいです。
ローテンションで張るメリット・デメリットのまとめ
メリット
・反発が上がる(ただ、出せるボールスピードは変わらない)
・反発が上がる影響で、余力を残して打てるため体力消耗を減らせる
・サーブの速度上昇
・少し打感が柔らかく感じる
・ホールド時間が伸びる(タッチショットがしやすくなる)
デメリット
・安定感が下がる(ムラが大きくなる)
・フェデラーのような絶対的なコントロールは難しい
・滑ってくるようなボールの伸びが出しにくい
・コントロールが良くないため余力が多く必要で、打っていきたい人には不満
・安定性が低いため、メンタルが重要になりやすい。
・怪我のリスクが増える(ローテンションすぎる場合)
ローテンションで張って良い条件
条件1 ストリングの伸び量が大きすぎないこと
伸び量の大きいストリングの場合、スナップバックが起きた時面ブレを起こしてコントロールが難しくなります。例えば、ヘッドのリンクス【インプレを見る】や、テクニファイバーのブラックコード【インプレを見る】・ヨネックスのポリツアープロなどです。また、細ゲージもあまりよろしくないです。太ゲージ(1.30㎜とか)にすれば伸び量が減るので大丈夫になります。
逆に、ルキシロンの「オリジナル[レビューを見る]」(スピン系最強ポリ)は、50lb超えてしまうと、フラットのホールド時間が短すぎるので、ローテンションで張ったほうが良いです。
もちろん意図的にセッティングをしているなら問題はないです。
条件2 スピン系ラケットではない
スピン系ラケット(特にピュアアエロやエクストリーム(100インチ))はストリンが間隔が広く、ストリングが伸びやすい(コントロールの乱れの一因のスナップバック量が多い)です。したがって、スナップバックによる面ブレが起きやすく、コントロールがしにくくなります。
ローテンションで張りたければ、少し伸び量の少ないストリングを選ぶか、1.30㎜など太ゲージを使うことをお勧めします。スピン系ラケットに対し一番お勧めなのは、ルキシロンの「オリジナル【インプレを見る】」です。スナップバック量が多くなく、スピン量が多い割にフラットドライブの安定感が高いです。
スピン系ではないですが、ピュアドライブ2018はストリング間隔が広いのでローテンションはお勧めできませんが、2021は、ストリング間隔が広くても動き量は少なめのため大丈夫です。
条件3 怪我をしていない
怪我をしている場合、無闇にテンションを下げるのは危険です。ローテンションになればなるほどコントロールや安定性が下がり、それを補おうとして無駄に力が入り怪我を助長させるからです。怪我をしている場合は、どちらかというと衝撃吸収性が高い「アイスコード(ポリ)【インプレを見る】」や「エックスワンバイフェイズ(ナイロンマルチ)【インプレを見る】」を選んだほうが良いです。
条件4 ボールの伸びを捨てる
ローテンションで張るとコントロール性の低さや安定性の低さから、ボールが滑ってくるように伸びなくなります。そこで、しっかりスピンをかけて初速の速さで勝負をするか、常に安定に意識を向けて打つかを選択する必要があります。ポリは1~2カ月くらい経つ(テンションが20%ちょっとくらい落ちる)とJTAランキング(日本のランキング)持ってる人でも、全然伸びてこなくなります。
ボレー中心なら、伸びがなくてもある程度カバーできます。シナーやべレッティーニのようにしっかりスピンをかけて初速の速さでカバーしても大丈夫です。また、フォニーニやキリオスのようにきついときはしっかり繋いで、行ける時だけ打つという手もあります。
プロはどうなのか
ルキシロンのオリジナル【インプレを見る】を張っている選手は、50lbが多いです。
ラオニッチが18×20のラケットにエレメントを46-44lb
ゴファンが16×18のラケットにアルパワーを46-44lb
ソックがピュアアエロ(過去モデル)にアルパワーラフを40lb
逆に、フェデラーやジョコビッチ・マレー・ワウリンカなどは60lb前後です。ナダルは55lbですが、1.35㎜と伸び量の少ないのを使っています。
一応ローテンションで張っているのは、ラケットやストリングのスピン量が少なめだったり、伸び量が少ないストリングを使っている選手だけです。
結構ATP(男子)のトップツアーで勝っている選手は、ハードなセッティングが多いと感じます。WTA選手(女子)は、ラケットは100インチが多いですが、アルパワーシリーズや4G、ブラスト、ホークタッチ、ポリツアーストライクなど伸び量があまり多くないものを使っています。テンションもATP選手より高いですし。
まとめ
ローテンションで張ると、体力的に楽にはなるかもしれませんが安定感の低下や攻撃力の低下などデメリットがあります。
正直、フラットドライブのプレイヤーは自身が求める、コントロール性・スピン量・安定感に合わせてセッティングをした方が、良いと思います。意図的なローテンションなら問題はありません。
運動でやっている方は、少し頑張って振ったほうが運動になりますし・・・。
あと、ローテンションのプレイヤーは丁寧なテニスがメインなので、ティエムやガスケのような爆発力や、モンフィスやブラウンのようなトリッキーさなどが少なくなり、見ごたえは少なくなるので、スポンサーが付きにくかったりするためあんまりお勧めしてほしくはないと個人的には思っています。ただ、握力も40歳前後が一番強いため、ローテンションでも思いのほか制御できるという理由もあるのですけどね。