ナイロン・ポリエステルガットの違いとそれぞれの利点

ナイロン・ポリエステルガットの違いとそれぞれの利点

2021年2月17日 0 投稿者: gura

 テニスラケットに張るストリング(ガット)は、ナイロンとポリエステルどっちを選べばいいか聞いてみると、「ポリは耐久性しかメリットがない」とか「ポリは飛ばない」だとか、ほとんどポリ否定派になっています。しかし、ナイロンとポリエステルストリングは構造上大きく違い、それぞれのメリットとデメリットがあります。





 ナイロンとポリの違い1

 コーティング

 ナイロンストリングとポリストリングの一番大きな違いは、「コーティング」です。

 ナイロンストリングはホールド感を出すために、マルチ加工や細い糸を外側に巻くモノ加工をしているため、外側の糸が細く切れやすくなってしまっています。その弱いナイロンの糸を守るためにコーティングがされています。

 では、摩擦が多い&少ないとどんなメリット・デメリットがあるのでしょうか?

 まず科学的な性質を見てみます。同じ構造の場合摩擦が多いと、「ホールド感時間が長い」「弾き感が弱い」「打感が柔らかい」「スナップバックが起きにくい(弱い)」で、摩擦が少ないと、「ホールド時間が短い」「弾き感が強い(シャープ)」「打感が硬い」「スナップバックが起きやすい(強い)」です。


 テニスのショットで見てみると、ポリのように摩擦が少ないストリングほどスナップバックが起き(強い)スピン量が増えます。しかし、スナップバックが起きれば起きるほど、“面ブレ”や“意図しない引っかかり”が出やすく、軌道の調整が難しくなります。その結果、フラットドライブや低弾道のスライスの安定性が下がります。

 逆に、ミクロスーパー(ナイロンモノ)やRPMパワー(摩擦コーティングされたポリ)[レビューを見る]など摩擦が大きいストリングほど、“面ブレ”や“意図しない引っかかり”が少なく、フラットドライブが安定します。(極端な例ですが下の多角形のスピン系ストリングを使うデメリット・メリットをご覧ください。)


 したがって、伸びる低軌道のスライスや、伸びのあるフラットドライブ、サーブの精度などは、摩擦の多いナイロンストリングやRPMパワーの方が良いです。逆に、低いボールを持ち上げたり、スピンやスライスサーブの回転量、高く跳ねるエッグボール、ミスしたくないときの安定性(スピンによりネットとのクリアランスを多くとれる)は、低摩擦のポリストリングの方がメリットになります。

 
 個人的にはエックスワンバイフェイズ(ラケットは18×20)が、適度な摩擦コーティングがあるため好きです。逆に摩擦が大きすぎると、弱く打ちたい時にストリングが動いてくれなかったり(動きすぎたり)、低いボールが持ち上げにくいですし、スピンをかけるために縦振りをしないといけないため水平方向のボール速度が遅くなったりします(面圧が下がるためテンションは下げたくない)。返球だけで言えば問題ないとは思いますが、棒球になりやすかったり、しっかり狙っていきたい時が難しいです。

 トッププロは、アルパワー[レビューを見る]とナチュラルのハイブリッドを使っている理由の一つがこれです。耐久性(テンション維持は悪い)はもちろんですが、このハイブリッド張りは、スピンによる安定性とスナップバック量が少ないことによるフラットドライブの安定性が出せます。



 ナイロンとポリの違い2

 打感

 ナイロンは科学的性質で、力を少し加えた時は柔らかく、力を加えれば加えるほど一気に硬くなっていきます。例えば、1の力を加えた時の硬さは1、2の力を加えた時の硬さは3、4の力を加えた時は8などとなります。

 逆にポリエステルは、最初は硬く後の方が柔らかいという表現がされます。1の力を加えた時の硬さが3、2の力を加えた時の硬さが6、3の力を加えた時が9などとなります。

 
 当然素材だけではなく種類にもよりますが、最初が柔らかいナイロンの方が軽く打った時のホールド感や、衝撃吸収性が良いです。また、素材の性質上ナイロンの方が弾き感は多いです。逆にポリ(特に伸び量が多いポリ)は弾き感が少ないです。

 反発

 世間は「ポリ=飛ばない」という意見が大多数ですが、合ってもいるけど合ってもいないと思っています。

 飛ぶとされている「エックスワンバイフェイズ」ですが、それより飛ぶポリも全然あります。だいたい反発力は同じ位(飛ぶナイロンと飛ぶポリで)なのかなと思います。

 ただ、先ほどのコーティングで述べた通り、摩擦が多いナイロンストリングは、軌道のコントロールがしやすいため、低めの弾道で打てますし(水平方向のスイングが速くできる)、スピン量も多くはないため、球足が短くなりにくいです。また、打感も軽いためスイングスピードも上がってしまっていると思います。また、ポリでもコントロール性が高いのと低いのもあり、やはり低ければコントロールしにくいです。その結果ポリが飛ばないとなっているのだと思います。摩擦が多い方がボールの伸びがあり、バウンド後の速度が比較的速いです。

 スピン

 「ナイロンはスピンがかからない」と言われがちですが、引っかかりがないだけで、卓球のように擦れて回転がかかっています。少なめなのは確かですが、思っているよりはかかっていると思います。高スピン量のナイロンマルチ(エックスワンバイフェイズなど)より、スピンがかかりにくいポリはたくさんあります。

 絶対的なスピン量や引っかかりはポリの方があります。したがって、低いボールの持ち上げやすさや、相手の足元に落としたい時のスピン量がしっかり確保できるため、コントロールしやすいです。またネットとボールのクリアランスが多く取れるため安定性が高いです。

 コントロールと安定性

 フラットドライブのコントロール性は摩擦の多いナイロンストリングの方がしやすいです。低軌道のスライスも摩擦の多いナイロンストリングの方が安定します。

 逆にポリは、低いボールをアングルショットしたり、しのぐボールを高スピンのエッグボール(高く跳ねて打ちにくいボール)にしたりできます。またスピン量が多い方が、ネットとのクリアランスを多く取れる上、アウトしにくいため安定性は高いです。

 つまり、ベストはナイロンとポリの間位だと思います。ナイロンだとスピンによる安定感がたりず、ポリだと、フラットドライブの精密性が少し低いです。トッププロは、ポリのアルパワーとナチュラルガット(摩擦がある)のハイブリッドにすることで、フラットドライブの精密性&スピン量の安定性を確保しています。ポリ単張りもいますが。

 攻撃力

 プレースタイルによりますが、フラットドライブや低軌道の伸びるスライスの攻撃力が高いのは、ミクロスーパーなどの摩擦の多いナイロンストリングです。しかし、最低限のスピン量がなければしのぎたい時など、棒球になりやすいです。

 逆に回転系の攻撃力(跳ねて取りにくい)が欲しい場合、ナイロンはスピン量が少ない上、すぐに切れるためポリを選ぶのがベストです。

 耐久性

 耐久性は皆さんのご存知の通り、ナイロンは切れやすく、ポリはテンションが落ちコントロールが乱れやすいです。

 ポリは使用期限は3日という方もいらっしゃいます。一般的には1カ月と言われてますが、ハードヒッターは切れなくても数回の使用で伸び切ることもあります。正直、2週間くらい経つと、ストリングの動きが大きくなりコントロール性が落ちてきているのがはっきりします。したがって振り方も少し変わります。テンション維持の良いハイパーGや4Gなどは、コントロールが落ちますがMAX2カ月だと思います。一定のコントロール性を保てるのは一週間以内だと思います。

 ナイロンは、比較的テンション維持が良く3カ月が使用期限と言われていますが、切断に対する耐久性が低く、3時間とか数時間できれることもあります。


 価格

 素材自体はナイロンの方が安いですが、加工工程が多いためナイロンの方が高価です。

 量販店でパッケージ品を買うと2500円~3500円が一般的です。数百円ポリの方が安いかな?位です。

 通販だと、安いシグナムプロだと一張り500円程度(ロール)、一般的なポリだと800円~、ナイロンは1500~になります。

 張り代は、安いところだと1500円~2000円(持込)・量販店だと3000円(持込)くらいはかかります。

 価格の優劣は、その人次第になります。





 ポリとナイロンどちらを選ぶか

 競技者でなければ、自己満足の世界のため好みで選んでも大丈夫だと思います。

 ポリは、「打感が好き」「スピン量が欲しい」「安定感が欲しい&バコりたい」「耐久性が欲しい」という方におすすめです。

 逆にナイロンは、「水平方向のボールスピードが欲しい」「伸びるフラットドライブやスライスを打ちたい」「柔らかい打感が良い」「怪我(テニス肘など)してる」という方におすすめです。

 個人的には、エックスワンバイフェイズが、適度な摩擦量でいい感じでした。スピンが少なめのポリよりスピンがかかりますし、摩擦があることでスナップバック量が少なめです。また、ホールド時間はしっかりあるがたわみ量の少なさ・打感の柔らかさ(たわみ量だけで言えば硬い方)、高い反発力・コントロール性など高次元です。

 あまり力のない方

 あまり力のない方はナイロンの方が良いと言われますが、怪我の防止や水平方向のボールスピード(フラットドライブ)の観点からいえば、そうだと思います。

 しかし、ピュアアエロなどを使い跳ねて返しにくいボールを打ちたい場合、どんどん振っていきたい場合、スピンやスライスサーブで空振りさせたい場合などは、ポリを使うメリットがあると思います。ただ、高反発のポリを使って下さい。ナイロンマルチが切れるならポリでもいいと思います。

 競技者

 競技者の場合、ナイロンはすぐに切れると思うので、コントロール性の高いポリをお勧めします。


 まとめ

 ポリはナイロンと比べ「スピン量が多い」(例外あり)ことで、ミスしたくないときの安定性や、スライスやスピンサーブの攻撃力アップ、エッグボールなど跳ねて取りにくいボールによる攻撃ができます。また、「切断耐久性が高い」「打ちごたえがある」「水に強い」などのメリットがあります。逆に、「衝撃吸収性が低い」「フラットドライブの安定性が低い」「テンションの耐久性が低い」などのデメリットがあります。

 ナイロンはポリに比べ、「フラットドライブの安定性が高い(水平方向のボールスピードが速い)」「ボールの伸びが多い」「テンション維持が良い」「打感が軽い」「衝撃吸収性が高い」などのメリットがあり、「スピンによる安定性が出しにくい」「切断耐久性が低い」などのデメリットがあります。


 競技者でなければ、趣味(テニス)なんて自己満足の世界です。ポリを選んでもナイロンを選んでもどちらでも良いと思います。ただ、ストリングのコントロール性だけは、高いのを選んだほうが、気分的にいいと思います。